ここでは、以下の、日本語で読める書籍・本を紹介します。 *著者名の五十音順。

 

・「月刊 世界の車窓から DVDブック NO. 39 ベラルーシ・リトアニア・ラトビア・エストニア」 朝日新聞出版

・『ひつじかいとうさぎ ラトビア民話』 再話 うちだりさこ 画 スズキコージ

・『バルトの光と風』  河村務

・「アスコルディーネの愛 ーダウガワ河幻想ー」『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』から  

 ヤーニス・エインフェルズ  訳 黒沢歩

・『ダンスシューズで雪のシベリアへ』 サンドラ・カルニエテ  訳 黒沢歩

・『木漏れ日のラトヴィア』 黒沢歩

・『ラトヴィアの蒼い風 清楚な魅力のあふれる国』 黒沢歩

・「最新版 週刊世界遺産 第74号 バルト三国の歴史地区」  講談社

・『バルト諸国の歴史と現在』 小森宏美・橋本伸也

・『バルト三国をボルボで走る バルト海沿岸の国々をめぐるクルマ旅』 笹目二朗

・『物語 バルト三国の歴史』 志摩園子

・『ラトヴィアを知るための47』 志摩園子 編著

・『リガ案内』 編者アルタ・タバカ   訳 菅原彩  小林まどか

・『ラトビアの手編み靴下  受け継がれる伝統の編み込み模様』  中田早苗
・『ラトビアの霧』  中津文彦
・『バルト三国歴史紀行<Ⅱ>ラトヴィア』 原翔
・『ニューエクスプレス ラトビア語』 堀口大樹
・『リガの犬たち』 ヘニング・マンケル   訳 柳沢由実子
『SUBARUとめぐる雑貨と暮らしの旅 持ち帰りたいラトビア』 溝口明子
・『バルト三国』 パスカル・ロロ   訳 磯見辰典 
・『NHKスペシャル 社会主義の20世紀 第2巻 バルトの悲劇-[ソ連] 一党独裁の崩壊-[ソ連]』 和田春樹  下斗米伸夫  ユーリィ・アファナーシェフ  NHK取材班
 
「月刊 世界の車窓から DVDブック NO. 39 ベラルーシ・リトアニア・ラトビア・エストニア」

朝日新聞出版

ご存知、テレビ朝日の長寿番組「世界の車窓から」。そのDVDブック・シリーズの一冊です。 

本書の舞台は、ベラルーシ+ラトビアを含むバルト三国。特にベラルーシをメインの構成にしているようです。
ラトビアの場面は、東部の町レーゼクネからモスクワ発の国際列車に乗車し、首都リガまで旅をします。また、リガのいわゆる観光名所の紹介もあります(個人的には、どんな町なのかあまり知らないレーゼクネの方をもっと紹介してほしかったのですが)。 
それにしても、どこまでも続く地平線、そんな大地を駆け抜ける列車を見ているだけで、気持ちのいいものです。「自分もいつか…」と、つかの間の現実逃避に最適です。 
本書の主役はもちろんDVDですが、少ない情報量ながら、しっかりとまとめられているブックにも注目してください。
 
『ひつじかいとうさぎ  ラトビア民話』
再話 うちだりさこ  画 スズキコージ
福音館書店
本書は、ラトビア民話の絵本です。有名なロシア民話『おおきなかぶ』の訳者うちだりさこさんが再話を手掛けています(再話とは、子ども向けに読みやすく書き直すこと)。
物語のあらすじは、飼っていたうさぎが脱走し、主人公の羊飼いがそのうさぎを探しに行くというもの。先述の『おおきなかぶ』と同じように、同じ行為の繰り返しが物語にリズムを与えています。
羊飼いは最後にうさぎを見つけ出しますが、これはハッピーエンドなのかなと疑問が残ります。うさぎの視点で見ると、首尾よく逃げ出したのに見つかって連れ戻された、かもしれません。純粋な心を失った大人になると、ついついそういう読み方をしてしまいます。
絵本は、絵そのものも楽しみのひとつ。スズキコージさんのビビッドな絵も必見です。
 
『バルトの光と風』
著者  河村務
東洋出版
本書は、未知の国・バルト三国に惹きつけられた著者が、約3週間をかけて三国を巡った旅行記。ルートは、エストニアのタリン、タルトゥ、ラトビアのリガ、リエパーヤ、リトアニアのクライペダ、カウナス、ヴィルニュス、です。
本書の最大の魅力は、著者が三国を訪れたのが1999年というところでしょう。まだそれほど観光地化されておらず、古いものが徐々になくなり新しいものがそれに取って代わる過渡期。今では見られない、感じられない三国を追体験することができます。
著者は作家やライターなどのいわゆる文筆業の人ではなく、一般の方のよう(ただ海外を訪れることには相当慣れている方)。と言っても、こなれた文章とテンポのよいリズムで、とても読みやすい旅行記です。
訪れる先々で、そこで出会った人々と交流する著者の姿勢も見どころです。本物の好奇心が伝わってきます。
 
「アスコルディーネの愛 ーダウガワ河幻想ー」『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』から
者 ヤーニス・エインフェルズ  
訳 黒沢歩 
東京創元社   
本書は、東欧10カ国(一般に言われる東欧ではありません)のSF・幻想小説を集めた作品集。ラトビアからは、編者の言葉を借りると、同国を代表するポストモダン作家、ヤーニス・エインフェルズの作品が収録されています。
この作品では、アスコルディーネという一人の女性をめぐって、いくつかの物語が語られています。最終局面で意外なつながりを見せますが、最初と最後にだけ登場する語り手が吸うアヘンに象徴されるように、作品全体が霧に包まれているような印象を受けます。
主な舞台は、ラトビアの大河ダウダワ川です。交易の要として富をもたらすと同時に、たくさんの大国を引きつける要因にもなったことでしょう。そのダウダワ川で命を落としたアスコルディーネに思いを寄せる男たちの物語。本書は、ダウダワ川に魅せられつつも翻弄されるラトビア人の歴史を語っているのかもしれません。
 
 ダンスシューズで雪のシベリアへ』 
著者 サンドラ・カルニエテ 
訳 黒沢歩
新評論
English Booksの"With Dance Shoes in Siberian Snows"を参照してください。
 
『木漏れ日のラトヴィア』 
著者 黒沢歩  
新評論
「ラトビアに興味をもったら、まずこの一冊」的な本。
1993年にラトビアにわたり、十数年間、現地で生活した経験をもつ著者が、ラトビアの日常を紹介しています。
この本の魅力は、ラトビア生活の経験者である著者が水先案内人となり、現地の日常を通して、ラトビアの文化や風習そしてときには政治を語っていることです。日本語で読めるラトビア関連の本は非常に少ないのですが、その中でも本書のように、外ではなく内に視座をおいているのはさらに希少価値大です。
また著者の文章力にも注目してください。日常を語りながら、さりげなく、そして効果的に、その歴史的・政治的背景を差し挟んでいるところなど、何度読んでも唸らされます。
ちなみに著者がラトビアに住み始めたころ、現地の邦人は著者一人だったそうです(大使館もまだなかったので)。やはり本書は希少価値大です。
 
『ラトヴィアの蒼い風 清楚な魅力のあふれる国』 
著者 黒沢歩  
新評論
前作『木漏れ日のラトヴィア』に続く第二弾。
十数年間におよぶラトビア生活を経験した著者が、現地の日常を紹介しながら、その背後にあるラトビア(人)の特性を浮き彫りにしています。
スタイルは前作とさほど変わりません。でも本書の方が、より日常にスポットライトを当てているように感じられます。特に第一章で語られる日常は、著者がノスタルジーをもって述懐しているのが伝わってきます。
個人的にはトイレの話が気に入りました。作中で引用される椎名誠氏の本を読んだことがあるので、あのインパクトのある描写が脳裏によみがえりました。
いずれにせよ、前作同様、ラトビアの豊かさを感じさせてくれる一冊です。
 
 「最新版 週刊世界遺産 第74号 バルト三国の歴史地区」
講談社
本書は、世界遺産をテーマにした分冊百科の一冊。バルト三国と(なぜかタイトルにはありませんが)フィンランドの世界遺産を取りあげています。
バルト三国の世界遺産と言えば、それぞれの首都の歴史地区。本書でも、町の歴史とともに、地区内の主要スポットを紹介しています。ただし、情報量はそれほど多くありません。一つ一つの世界遺産を深く知るということを目的にすると、物足りなさは否めません。反対に、ポイントはおさえているので、旅行直前、時間のないときにガイドブックとして読むといいかもしれません。
ラトビアの世界遺産はリガの歴史地区以外にもう一つ。それは「シュトルーヴェの測地弧」と呼ばれているもので、19世紀のロシア人天文学者シュトルーヴェが地球の正確な大きさと形を調べるために測量した跡です。そして、この遺産のおもしろいところは、それがラトビアだけに存在するのではなく、北はノルウェーから南はウクライナに至る約2,820キロ、計10か国にまたがって存在するという点です(世界遺産として登録されているのは、全265の観測地点のうち、34だけ)。とても地味な世界遺産ですが、人類への功績は計り知れないほど大きいそうです。
  
『バルト諸国の歴史と現在』 
著者 小森宏美・橋本伸也  
東洋書店 ユーラシア・ブックレット
第一次世界大戦後の独立期から2000年ごろまでのバルト三国を俯瞰したブックレット。
エストニアとラトビアを中心に主に政治の面に焦点があてられているので、わりとハードな内容です。文化などソフトな分野に興味がある人には、本書は向かないかもしれません。
本書の特長は、コンパクト(たった60ページほど!)にまとめられているところ。ラトビアが(あるいはバルト三国が)、20世紀という時代をどのように歩んだのかを手っ取り早く知りたい方におすすめです。
  
『バルト三国をボルボで走る バルト海沿岸の国々をめぐるクルマ旅』
著者  笹目二朗
枻出版社
自動車ジャーナリストによる旅行記。スウェーデンのイェーテボリから反時計回りに計9カ国(順にスウェーデン、デンマーク、ドイツ、ポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランド、ノルウェー)をぐるっと一周。道中訪れた町々の様子を色鮮やかな写真とともに紹介しています。
なぜスタートとゴール地点がイェーテボリなのか。それは本書のタイトルにあるように、この旅行記はクルマ旅、そしてその主役がボルボだからです。ボルボと言えば、スウェーデンの自動車メーカーで、その本社はイェーテボリ。そして、著者はボルボの広報車を借りて、旅に出たというわけです。
本書は『バルト三国を〜』というタイトルながら、あまりバルト三国に紙面を割いていません。だから、バルト三国という言葉にときめきを感じて読んだ人は少しがっかりするかもしれません。タイトル後半にある「バルト海沿岸の国々」が舞台ですので、バルト三国(だけの)ファンの人は「少し視野を広げてみるか」ぐらいの気持ちをもって読んでください。
先述の通り、著者は自動車ジャーナリストです。ですから本書は世間一般で言う旅行記とはやや異なります。また、単に移動手段として自動車を使ったから「クルマ旅」というわけでもありません。本書の至るところに、燃費をはじめとした自動車の性能についての記述があります。この分野の知識があまりない人にとっては、おそらく馴染みのない言葉も見られます。従って、本書は「バルト海沿岸の国々を回って、いろいろ試しながら、ボルボの性能を調査しました」的な側面がとても大きいと言えます。とは言え、特に北欧の心癒される景色が十分に散りばめられていますので、自動車のことはよくわからないという人も楽しめる一冊です。
  
『物語 バルト三国の歴史』 
著者 志摩園子  
中央公論新社
本書は、中世から2004年までのバルト三国を時代別に解説しています(2004年は、バルト三国がNATOとEUに加盟した年です)。
本書の特徴は、エストニア、ラトビア、リトアニアそれぞれの歴史をまんべんなく記している点です。大雑把に言うと、本書は三国を総合的にがっつりと扱っています。だから、バルト三国全体の歩みを把握したい人にとっては、とても勉強になる本です。
でも、この「三国を総合的にがっつり」というのは、意外に難しい作業です。というのも、エストニアとラトビアは比較的似たような歴史をもっていますが、ここにリトアニアを同レベルで加えるのは全体が間延びしてしまい、収拾がつかなくなるおそれがあるからです。おそらく本書のリトアニアの扱い方がギリギリセーフではないでしょうか。
いかに三国が歴史に翻弄されたかがとてもよくわかる良書です。現代の三国を理解するうえでも、はずせない知識だと思います。
 
ラトヴィアを知るための47章』 

編著 志摩園子 

明石書店

本書は明石書店のエリア・スタディーズの一冊。バルト三国ではエストニアに次ぐ刊行です。

内容は七つの視点(自然と都市、歴史、言語と生活、文化、社会、政治と経済、国際関係)から、ラトビアを解説。タイトルにある通り全47章+19のコラムで構成されています。

本書の特徴は、30名を超える著者がそれぞれの専門分野を執筆。故に、ラトビアの入門書という位置づけながら、ラトビア初心者から上級者まで楽しめます。

また、この類の書籍は、最初から順に読み進める必要はありません。途中から読んでもよし、興味のある箇所だけを読んでもよし。ないしは旅行前に読むのもいいかもしれません。

ラトビア好きの人なら手元に置いておく価値は十分にある一冊です。

 

『リガ案内』 
編者 アルタ・タバカ   
訳 菅原彩・小林まどか  
土曜社
本書は、ガイドブックには載っていないリガの隠れスポットを紹介しています。レストランやカフェ、書店、博物館、小道に至るまで、リガ在住のラトビア人たちがピックアップ。写真つきの、計162のお勧めスポットが次から次へと紹介され、読んでいるだけでリガに行った気になれます。
個人的には、77番の「新刊と古書の店ユマヴァ」がお気に入り。現実世界でリガに行った際には、ぜひ訪れたいと思います。
いわゆる観光名所だけでは物足りない人におすすめの一冊です。
  
『ラトビアの手編み靴下 受け継がれる伝統の編み込み模様』  
著者 中田早苗  
誠文堂新光社
ラトビアと言えばミトンが有名ですが、このムックの主役は靴下。ラトビア各地の手編み靴下を豊富な写真とともに紹介しています。
本書を読むと、ラトビアはとても小さな国ですが、地方によって、さらには同じ地方でも町によって、まったく異なる模様・デザインの靴下を受け継いできたことがよくわかります。例えば、冒頭ではクルゼメ地方の三つの町の靴下が取り上げられていますが、アルスンガの靴下の圧倒的な色鮮やかさがとても印象に残ります。また、ラトガレ地方では、かかと部分の編み足しもおこなわれていたとのこと。それは、そこに住む人々の生活が求めた知恵のようです。
さらに本書では、作り手にも注目しています。伝統の継承という重責を担う彼女たちの言葉からは、編むという行為が、彼女たちにとっては日々の生活に根ざしたものだということがよく伝わってきます。たかが靴下かもしれません。でも、そのあまりにも身近なものにこだわり、それを大切にする姿勢の中にこそ、ラトビア人(民族)の気質が垣間見えるような気がします。
目でも楽しめ、ラトビアの伝統にも触れられる一冊です。
  
『ラトビアの霧』  
著者 中津文彦  
講談社
本書は、江戸川乱歩賞作家・中津文彦のミステリー小説です。舞台は、戦時中の満州国、1980年代の神戸、そして1988年のラトビアの首都リガ。おそらく日本人作家がラトビアを舞台に書いた小説は、この作品だけではないでしょうか。
基本的には、戦時中の出来事(事件)に端を発する復讐劇と、日本人青年とラトビア人女性のロマンスを中心に物語が進行します。
そして何と言っても、本書の魅力はリガについての描写。著者自身がソ連の作家団体からの招待を受けて組まれた訪問団の一員としてリガを訪れた経験から、リガの街並みやそこで暮らす人々の生活を丁寧に描いています。その筆致から、著者がラトビア(リガ)にいかに魅了されていたかがよく伝わってきます。
この小説はフィクションとは言え、リガと神戸が姉妹都市であることや、ペレストロイカの影響で徐々に規制が緩和されるさまなど、事実が土台となっています。ラトビア・ファンや実際にラトビアを訪れたことがある人にとっては、ミステリーのワクワク感以上のものが得られるでしょう。
まったくの余談ですが、相手が中国の都市の場合、姉妹都市ではなく、友好都市と呼ぶそうです。姉妹都市では、姉・妹の上下関係が生じるからとのこと。本書で学んだ豆知識です。
  
『バルト三国歴史紀行<Ⅱ>ラトヴィア』 
著者 原翔  
彩流社
実際に現地を旅してまわった著者による紀行文。首都リガをはじめ、スィグルダ、ツェーシス、バウスカ、リエパーヤなどの地方都市をその歴史とともに紹介しています。
本書は基本的に紀行文ですが、歴史に重点をおいたガイドブックとしても十分に読めます。リガの観光スポットについても詳しく書かれていますので、旅行前に読むのもいいかもしれません。ただ、簡単な観光情報だけを必要とする人や、歴史が苦手な人にとっては、本書はややヘビーに感じられるでしょう。
なお、本書はバルト三国歴史紀行シリーズの一冊で、ほかにエストニアとリトアニアもあります。
  
『ニューエクスプレス ラトビア語』 
著者 堀口大樹 
白水社
日本語で学習できる唯一のテキスト。日本人が外国語のテキストと聞いてイメージする構成だと思います。ラトビア語の難解さは置いといて、とっつきやすいテキストではないでしょうか。
全20章あります。各章4ページ構成で、いくつかの文法項目を取り上げています。
英語では考えられないことに、たくさん出会うでしょう。それも外国語学習の楽しみのひとつだと割り切って(?)、チャレンジしてみてください。
  
『リガの犬たち』 
著者 ヘニング・マンケル 
訳 柳沢由実子 
東京創元社
スウェーデンの人気作家ヘニング・マンケルの警察小説、クルト・ヴァランダーシリーズの一冊。
タイトル通り、「ラトビア(リガ)」が関係している小説です。スウェーデンの海岸に流れ着いた死体に端を発する事件。舞台はスウェーデンの田舎町から、独立回復直前(1991年)のラトビアへと移ります。ヴァランダーが足を踏み入れたラトビアは、全体主義に覆われた灰色の世界。小説とはいえ、当時のラトビアの様子をうかがい知れる作品です。
  
『SUBARUとめぐる雑貨と暮らしの旅 持ち帰りたいラトビア』
著者 溝口明子
誠文堂新光社
著者は神戸でラトビア雑貨の専門店SUBARUを営む店主。仕事上の経験+ラトビアで生活した経験をもとに著した本です。
本書は内容的に大きく二つのパートに分かれます。まず、陶器や編み物、バスケットといった手仕事による雑貨の紹介。ここで注目したいのが、ラトビアは日本の6分の1程度の小さな国ですが、その手仕事に地域色がはっきりと出ていること。例えば、ヴィゼメ地方とラトガレ地方の陶器の差は一目瞭然。赤土・黒土、一回焼き・二回焼きとそれぞれに特徴があります。また、著者はここに登場するような雑貨類だけでなく、その背景、つまり、作り手の想いやラトビアという国の伝統・文化・歴史といったものにも強く魅せられている印象を受けます。本書のタイトルにもなっている「持ち帰りたいラトビア」の「ラトビア」とは、そういったものも意味するのだと思います。
二つ目のパートは、ラトビアの楽しみ方指南。リガ旧市街はもちろん、野外博物館で毎年開催される「森の民芸市」や田舎暮らし体験などを紹介しています。レトロ感たっぷりのヴィンテージ雑貨も遊び心にあふれています。単なる観光とはちがったディープなラトビアを味わいたい方には垂涎の情報が満載です。
もちろん本書には現地の写真もあちこちに。ベッドに横になって眺めるだけでも楽しる一冊です。
 
『バルト三国』 
著者 パスカル・ロロ   
訳 磯見辰典  
白水社  文庫クセジュ
本書は、フランスの研究者によって書かれたバルト三国の解説書を翻訳したもの。
原著の発行は1991年の一月。つまり、三ヶ国では独立回復に向けた運動がおこなわれていた真っ只中です。ラトビアではこの月に、内務省がソ連の特殊部隊に占拠され、騒乱の中、5人の市民が犠牲になっています。
著者は歴史を中心に三ヶ国を紹介していますが、独立を見据えたスタンスをとっているため、時事問題の解説書のように感じられます。
バルト三国の独立は、長らくソ連という大国と対峙してきた西欧にとっては地殻変動とも言える衝撃だったと思います。本書は、その独立を目前にした時期における、西欧の識者の見解を知る資料としてもおもしろいかもしれません。
  
『NHKスペシャル 社会主義の20世紀 第2巻 バルトの悲劇-[ソ連] 一党独裁の崩壊-[ソ連]』
著者 和田春樹  下斗米伸夫  ユーリィ・アファナーシェフ  NHK取材班
日本放送出版協会
1990年4月〜12月に月一回ペースで放送されたテレビ番組「NHKスペシャル 社会主義の20世紀」(全9回)。本書は、そのシリーズ番組の第3・4回が書籍化されたものです(初版:1990年10月)。
本書で重点的にバルト三国を取り上げているのは前半部分。タイトルにもある通り、ソ連に呑み込まれたバルト三国の悲劇を、①NHK取材班による報告②専門家による分析・解説、の二部構成で描いています。②に関しては、それなりに歴史の知識が必要なので、難しく感じるかもしれません。①の方はエストニアを中心に、関係者への取材や歴史的資料を通して、バルト三国が負わされた有形無形の傷にスポットを当てています。個人的な感想で言えば、この本でしか出会えない内容の①をおすすめします。
先述の通り、本書のもとになっているテレビ番組が放送されたのは、1990年。つまり、バルト三国はまだ独立を回復していません(一年後に再独立)。にもかかわらず、本書を読んでいると、すでに独立してから数年が経っているような印象を受けます。それはおそらく、ソ連による完全に閉ざされた占領期には不可能であった「悲劇を語る」という行為が本書でおこなわれているからでしょう。独立を目前にしたバルト三国。当時の社会の雰囲気がとてもよく伝わってきます。